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京都地方裁判所 昭和58年(ワ)1713号 判決

原告 有限会社 正木商店

右代表者代表取締役 正木英吉

右訴訟代理人弁護士 田中実

被告 エムアンドエツチ株式会社(旧商号マツクハーベスト株式会社)

右代表者清算人 橋詰雅之

右訴訟代理人弁護士 八代紀彦

同 佐伯照道

同 西垣立也

同 辰野久夫

同 天野勝介

主文

一、原告と被告間の京都地方裁判所昭和五八年(手ワ)第一七四号約束手形金請求事件について同裁判所が同年九月二八日言渡した手形判決及び同裁判所同年(手ワ)第二二一号約束手形金請求事件について同裁判所が同年一一月一七日言渡した手形判決をいずれも認可する。

二、被告は原告に対し金一五〇〇万円及びこれに対する昭和五八年一〇月二〇日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

三、訴訟費用(但し昭和五八年(ワ)第一七一三号、第二〇〇六号各事件の異議申立前の分を除く)は被告の負担とする。

四、この判決第二項は仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

(主位的請求、予備的請求とも)

1.被告は原告に対し金三四五〇万円及び内金一〇〇〇万円に対する昭和五八年八月一〇日から、内金九五〇万円に対する同年九月三〇日から、内金一五〇〇万円に対する同年一〇月二〇日から各完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2.訴訟費用は被告の負担とする。

3.仮執行宣言

二、被告

1.原告の請求をいずれも棄却する。

2.訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

(一)  主位的請求

1.原告は別紙約束手形目録(1)ないし(5)記載のとおりの約束手形五通(以下本件各手形という。)を所持している。

2.被告は本件各手形を振出した。

即ち本件各手形は被告の使用人であった小澤将樹が振出したものであるが、右小澤は被告会社の総務部長として経理、財務一般を統括する権限のみならず、被告会社の実印、銀行取引印等を保管し手形振出の権限を授与されていた。

3.本件各手形はいずれも満期の日に支払場所で支払のため呈示されたが、支払がなかった。

4.よつて原告は被告に対し本件各手形金合計金三四五〇万円及びこれに対するそれぞれ本件各手形の満期日から完済に至るまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求める。

(二)  予備的請求

1.被告会社は右小澤の元使用者であり、一方右小澤は主位的請求原因2記載の職務を担当する被用者であった。

2.仮に本件各手形が右小澤が被告会社代表取締役に無断で権限なく偽造して振出したものであるとしても、本件各手形の偽造振出は右小澤が被告会社の事業の執行につきなしたものである。

3.原告は被告の被用者右小澤の本件各手形の偽造により本件各手形券面額相当額三四五〇万円の損害を被った。

4.よつて原告は被告に対し民法七一五条に基づき予備的請求の趣旨記載の金員の支払を求める。

二、請求原因に対する認否

(一)  主位的請求原因に対する認否

請求原因1の事実のうち別紙約束手形目録(4)、(5)記載の約束手形を原告が所持していることは認めるが、その余は不知。

同2の事実のうち本件各手形のうち別紙約束手形目録(1)ないし(3)記載の約束手形を被告の使用人であった右小澤が振出したこと、右小澤が昭和五一年一〇月から昭和五八年六月まで被告会社の総務部長として総務・人事・経理に関する事項を職務として担当していたことは認めるが、その余は否認する。

被告は右小澤に対し被告会社代表取締役橋詰雅之の個別の決裁及び指図により約束手形等の作成事務を担当させていたものにすぎない。

同3の事実のうち別紙約束手形目録(4)、(5)記載の約束手形が原告主張の如く呈示されたことは認めるが、その余は不知。

(二)  予備的請求原因に対する認否

請求原因1の事実のうち被告会社が右小澤の使用者であったこと、右小澤が昭和五一年一〇月から昭和五八年六月まで被告会社の総務部長として総務・人事・経理に関する事項を職務として担当していた被用者であったことは認めるが、その余は否認する。

同2の事実のうち右小澤が本件各手形のうち別紙約束手形目録(1)ないし(3)記載の約束手形を偽造したことは認めるが、その余は否認する。

同3の事実は否認する。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、主位的請求についての判断

(一)  原告が別紙約束手形目録(4)、(5)記載の約束手形を所持していることは当事者間に争いがなく、原告が本件手形を甲第一、第三、第四号証として提出したこと及びその記載により原告が別紙約束手形目録(1)ないし(3)記載の約束手形を所持していることを認めることができる。

また別紙約束手形目録(4)、(5)記載の約束手形が各満期日に支払場所で支払のため呈示されたことは当事者間に争いがなく、いずれも成立に争いのない甲第一、第三、第四号証の各付箋部分及び弁論の全趣旨によると別紙約束手形目録(1)ないし(3)記載の約束手形が各満期日に支払場所で支払のため呈示されたことが認められる。

(二)  そこで被告に本件各手形につき振出人としての責任が認められるか否か(請求原因2)について判断する。

〈証拠〉によると、被告は昭和五〇年六月一六日に設立された現在の資本金一億円の婦人服地の製造卸販売等を業とする会社であるが(商号は当初マックハーベスト株式会社であったが、昭和五八年七月二〇日にエムアンドエッチ株式会社と変更)、当初から橋詰雅之が代表取締役をし従業員は当初四、五名であったものの昭和五七年頃には支店を含め七〇名程度に成長した中規模の会社であること、小澤将樹は昭和五一年一〇月頃被告会社に入社し昭和五八年六月二〇日退職するまで同会社に使用人として稼働したが、その間当初総務経理を担当し、次第に経理事務等を中心となり管理するに至り、昭和五六年頃総務部長となり総務・人事・経理等の事務を総括管掌し、銀行に対する金融等の交渉、仕入先への買掛代金の支払、そのための手形の振出等の事務に従事していたこと、なお手形の振出に関しては銀行届出印、会社の記名印、手形帳等を右小澤が保管し、右小澤が代表取締役橋詰の指示あるいは決裁のうえ、手形用紙の金額欄、支払期日欄等を記載して押印しこれを支払先等に交付するという手続をとっていて、右小澤は独自に手形を振出す権限までは授与されていなかったこと、右小澤は互興商事株式会社(代表取締役坂根賢)に対し金融の便を図るため本件各手形を、各振出日欄記載の頃、代表取締役橋詰の承諾を受けずに無断で振出したことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実によると右小澤は被告会社の単なる機械的事務に携っていたのではなく、総務部長として少なくとも法律行為として被告名義の手形を振出す権限を除く、その他の経理事務に関する事項の委任を受けていた使用人であること明らかであり、このような商業使用人は商法四三条により経理に関する一切の裁判外の行為をする権限を有するものであるから、右小澤は総務部長として一般的客観的には被告名義の手形行為をする権限を有していたものと解せられる。そして右小澤が内部的には右のように被告名義の手形を振出す権限がなかったことを、原告が知っていたことを認むべき証拠はないから、結局被告は原告に対し右小澤の手形振出権限の欠缺を主張することはできず、本件各手形金の支払義務を免れえない(なお原告は商法四三条の主張をしているものと解す。)。

二、結論

以上のとおり原告の主位的請求は、予備的請求の判断をするまでもなく正当であるからこれを認容すべきものである。よつて民事訴訟法四五七条一項本文によりこれと符合する主文第一項記載の手形判決を認可し、訴訟費用の負担につき同法四五八条一項、八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小山邦和)

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